OooDaの波乱万丈すぎるキャスター人生。 「地獄でピクニックできる人、待ってます」

eスポーツの大会がトラディショナルスポーツと違う点に、選手の存在感が希薄になりがちという問題がある。

オンライン大会はもちろんのこと、オフライン大会でも基本はゲーム画面を映す関係上、選手1人1人が映る時間はどうしても制限があり、1vs1のタイトルならともかく、チーム戦やバトルロイヤルではなおさらだ。

結果として、キャスターの存在感が相対的に大きくなる。

「試合を楽しみにしているけど、あの人の喋りを聞くのも同じぐらい楽しみ」という人は、eスポーツファンの中に少なくないだろう。

そんな“表方”のキャスターの中でも「一言目、なんなら一文字目から面白い稀有な人」はいる。たとえば、OooDaさん。同じくゲームキャスターの岸大河さんとのインターネットラジオ「スタングレネード」の人として覚えている人もだろうか。

OooDaさんのメインジャンルはPUBGなどFPSだが、MMOからタワーディフェンスまで守備範囲が広く、そしてどこでも、一言目で空気を掴む。なんというか、声がすでに面白い。

その彼はどうやってキャスターになったのか、キャスターはどんな生活なのか、そしてキャスターという仕事には、どんな人が向いていると思うか――。最前線を走る人の話は、やはり想像の斜め上だった。

映画監督への夢が諦められず・・とりあえず東京来ちゃいました(笑)

――はじめまして。今日はeスポーツここからどうなっていくんだろう、っていう話ができるといいなと思ってきました。

OooDa:どうなっていくんでしょうねぇ、っていうかどうしましょ。

――あはは、でもほんとそういう感じですよね。ではこれからの話の前に、まずOooDaさんがここまでどうやって来たか、という話を聞いてもいいですか。

OooDa:どこから行きましょうか。えっと僕今年32歳なんですけど、ゲームにハマったのは意外と遅くて22歳ぐらいの時だったんですよ。

――それは結構珍しいタイプですね。それまでは何が好きだったんですか?

OooDa:大阪の高校を卒業してしばらくは、地元で工事現場で働いてました。ニッカポッカはいて足場組立てて、みたいな感じで。

――めちゃくちゃ肉体派じゃないですか。

OooDa:ですです。けどしばらくして精神的にキツイ時期があって、地元の友だちとも連絡を取らなくなって、20くらいで思い立って東京へ出てきました。

――なかなか唐突です。なぜ東京へ?

OooDa:昔から映画が好きで映画監督になりたかったんですよね。その夢を諦められなくて、貯金と親から借りたお金で東京に家を借りて、ポンと1人で出てきました。

――専門学校とかに入ったりしたんですか?

OooDa:いや、とりあえずで東京へ来ちゃいました(笑)。それで音楽系のPVとかを作る制作会社でバイトしながらコミュニティを探して、みんなで自主映画なんかを作ってました。カメラを回して、Macで編集して。

――ゲームが出てきません。

OooDa:もうちょっとかかりますよ。それでまた2年ぐらい経った頃に、1本ちょっと本気を出して映画を作ってみようと思って『アンパン』っていう映画を作りました。

――ヤンキー映画的な……?

OooDa:ちょっとちょっと(笑)、食べ物のアンパンです。とある男性がテレビの「あの人を探してください」みたいな番組の企画で生き別れの父を探して、最終的にとある老人ホームで出会うんですけど、その中で好きだったアンパンの記憶がオーバーラップしてくるような映画でした。

――ロードムービーみたいな。

OooDa:そうです。中目黒の会議室に飛び込みで使わせてもらえるように頼んだりしながら、神奈川の老人ホームを「絶対いい映画になるんで」って説得して使わせてもらって、俳優もギャラは出せないので交通費だけ支給っていう条件で面接して決めて。

――かなり大仕事ですね。

OooDa:それでなんとか撮り終わって、編集して「さあどうだ」って見てみたらイメージと全く違って……。

――それはどちらに?

OooDa:全然ダメでした。カット割りもボロボロだし、明るさもめちゃくちゃ。あまりにショックすぎて、老人ホームへのお礼とかもせずに、仕事にも行かずに引きこもってしまって。

引きこもり生活。そこで出会ったのが「ゲーム」

――やっぱり振れ幅が大きいです。でも1人暮らしで引きこもっちゃうのは心配ですね。

OooDa:ここでようやくゲームが出てくるんですけど、その1人暮らししてた家の隣の部屋に住んでたオタクの大学生と顔合わせると会話するぐらいの関係だったんですけど、その彼が「面白いんでちょっとやってみてくださいよ」って教えてくれたのが『ペーパーマン』っていうPCのFPSでした。

――ここで出会ったわけですね。

OooDa:そうなんです。で、やってみたらめっちゃ面白いし、ボイスチャットで全国の人と喋りながらクラン戦ができるしでドハマリして、そこからゲーム漬けの日々が始まりました。

――でついにゲームが登場しました。

OooDa:そこからは一直線でしたね。いろんなゲームをやってたんですけど中でも「Counter Strike」にハマって、大会とか楽しそうだなと思ってコミュニティ大会のスタッフに応募したら、「君しゃべれる?」って当日に突然言われて。

――大会スタッフのつもりが、キャスターになっちゃったと。

OooDa:言われてやってみて、っていうのがスタートですね。でもやってみたら楽しくてそこから毎週末しゃべるようになり、USTREAMの視聴者も最初は200人くらいだったのがどんどん増えて最盛期は1500人ぐらいまで行きましたね。

――1500人はかなりの数ですね! でもその頃はまだボランティアというか、お仕事ではない状態ですか?

OooDa:そうですそうです。仕事として声をかけてもらったのは「Counter Strike Online」が初めてでした。2011年くらいかな? とはいっても年に3、4回お仕事があるかな、くらいで。1回のお金も1万5000円とかそういう感じだったので、生活できるとかそういうレベルではないんですけどね。

大好きな「ゲーム」が仕事に・・・実はめちゃくちゃ大変でした。

――でもちょっとでも、好きなことが仕事になる瞬間って感動しますよね。

OooDa:そうなんですよ、その頃バイトしてた会社で「社員にならない?」って誘われたりもしたんですけど、その年に数回しかないゲーム実況の仕事が頭の片隅になぜか残っていて、実況の時間が取れなくなるから社員にはなれない、と断ったんですよ。

――捨てられない気持ちはわかる気がします。

OooDa:その後大きかったのは、2014年にゲーム系のイベント会社に拾ってもらったことでした。キャスター仕事のために時間も調整するから、と誘ってもらって。

――遊びだったものが完全に仕事になってきた、と。

OooDa:そうなんですけど、実はその時期はめちゃくちゃ大変でした。週5でイベントの企画をしながら週末はキャスターをして、イベントの打合せから初めて選手や登壇者のキャスティングをして、自分で進行の台本を書いて、トラックを運転して機材を運び込んで舞台を設営して、しかも当日は自分でしゃべる、みたいな(笑)。

――ワンマンeスポーツすぎます(笑)。

OooDa:自分で書いた台本でしゃべってるから、「あ、BGMのタイミングが違う」とか裏方のことばっかり気になっちゃう日とかありましたね。

――それは気が気じゃなさそうです。

OooDa:でもキャスター業に最大限配慮してもらえたのは本当にありがたかったんですけどね。それからしばらくして僕がいた会社がサードウェーブの出資を受けて、今のE5 esports Worksという子会社の形になった時に一緒に移ってきて、今に至ります。

――ついに現在にたどり着きました(笑)。ということは今もまだ会社員とキャスターの兼業という形なんですか?

OooDa:普通に週5フルタイムで働いてますよ。でもプロデューサーみたいな仕事はだいぶセーブさせてもらって、キャスターの仕事にかなり時間を割ける体制なので助かってます。今はもうトラック運転したりすることもないですし(笑)。

――会社ではどんな立ち位置なんですか?

OooDa:イベントチームのリーダーみたいな感じですね。進捗どう? とかわかんないことない? とか。

――完全に管理職じゃないですか。

OooDa:あっはっは、実はそうなんですよ。7人ぐらいチームメンバーがいるので、ちゃんとしないといけないんですけどね。

――キャスター業は副業、という扱いなんですか?

OooDa:えーっと、秘密です!(笑)。

――秘密ですか! でもキャスターメインで生活できている状態ではありますよね?

OooDa:んーまぁそうですね。今は会社員としてちゃんと生活できてますし、仮に、仮にですよ、いま会社を辞めてキャスター1本になっても、生活はできると思います。

――そのぐらいにはお仕事がある、と。

OooDa:ありがたい話ですよね。件数もですけど1回の出演料も全体的に増えている傾向なので、それは若い人にとっても夢がある話なんじゃないかなぁと思います。

――やっぱり、キャスターを目指したいという人の相談を受けたりしますか?

OooDa:相談されるんですけど、今からキャスターになるのは正直僕らの頃より遥かに厳しい状態だと思います。僕らはツイてたんですよね。

――どういうことでしょう?

OooDa:僕が今こうやってお仕事できてるのって、eスポーツがガーって一気に流行りだした時に、すでに結構長くやってたからだと思うんですよ。もちろん能力とか人柄とか言ってもらうのは嬉しいですけど、自分的には結構運の要素も大きいと思ってるんですよ。そのタイミングでそこにいた、というか。

――今一線のキャスターの方は似た世代の人が多いですよね。

OooDa:岸(大河)くんとかLJLのeyesさんとか。それで僕は今の席を譲る気は当然ないし、あと10年くらいは喋っていたいと思ってます。たぶん、他の人も結構そうなんじゃないかな? だから、今からスタートしようっていう人は競争率上がってキツイだろうなぁって普通に思いますよ。

――たしかに大会も増えてますけど、それ以上にキャスターになりたい人も増えている感じがします。アドバイスするとしたらなんて声をかけますか?

OooDa:やー、やめとけば? 地獄だよ? って言います(笑)。

――え、それはどうしてでしょう。

OooDa:僕の場合なんですけど、「この選手すごくない?」「この試合めっちゃ面白くない?」っていうのをみんなと共有できた瞬間が一番嬉しいんですよ。

――はい。

OooDa:でも大会って何千人という数の人が観てて、全員が納得してくれることってまずないですよね。しかも僕がもし実況をミスったら、この大会面白くないな、ちょっと違うなって思われるじゃないですか。僕は今でも大会の前になると本当に毎回怖くて、終わった後も「どうしてあのタイミングで気の利いたことを言えなかったんだろう」って凹むし、うまくいったなって思えることはほっとんどないです。

――めちゃくちゃ意外です。OooDaさんは素であの陽キャのなのかと思ってました。

OooDa:普段は超暗いです。今日のインタビューも相当作ってしゃべってますから(笑)。PUBGの大会でも毎週、放送前に「今日しゃべれるかな」って不安になって、相方のDetonatorのSHAKAさんになだめてもらうのがルーティンになってますし。

――それまた意外です。でもやっぱり、本当に地獄だったら10年も続けてないと思うんですけど、どうしてOooDaさんは続けてこられたんですか?

OooDa:んー、やっぱり好きだからですよね。僕は別に仕事じゃなくてもゲームのことでしゃべってたいし、同じゲームの人と「これ面白くね?」っていうのを共有したいし、ほんとそれだけなんですよねぇ。

――ではちょっと聞き方を変えて、そんな辛くて楽しいキャスターっていう仕事に向いてる人ってどんな人ですか?

OooDa:キャスターに向いてるのは、地獄でピクニックできる人です。

――どういうことでしょう?(笑)

OooDa:いろいろ辛いこともあるしキツイことも怖いこともあるけど、それを「わー地獄だねー」って言って、拷問されながらサンドイッチ食べて笑える人はキャスターに向いてると思います(笑)。そんな人、お待ちしてます!



1時間、いつものなんてことない会議室は、インタビュー中、完全にOooDaさんオンステージだった。

第一声で空気を持っていって、質問が想定の3倍面白くなって返ってくる。なのに、「普段は超暗い」というギャップ。

インタビューではキャスターとしての技術の話も出たのだが、技術の前にこの人が面白いんじゃないの、という風に思ってしまう。それさえも技術だとすればもう脱帽するよりほかない。

とにかくわかってほしかったのは、今最前線を走っているのはこんな化け物で、しかもその人でさえ日々不安と戦いながら、それを笑い飛ばしながら走っているということ。歴戦のキャスターは伊達ではない。

彼が今の場所にいるのは、必然ではないとしても、偶然で片付けていいものでもないのだと再確認した1時間だった。