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“謎の”ビデオカードメーカー
「Palit」潜入レポート こだわりの技術で個性を発揮する
台湾発の老舗メーカー
Palitの本社オフィス前で、左は広報担当のサンディ・リー氏、右はPalit Microsystems 製品マーケティング部 部長 ジョナサン・イー氏
ドスパラが国内代理店を務めるビデオカードメーカーが、台湾のPalit(パリット)社だ。Palitは1988年に創業した老舗のPCコンポーネントメーカーで、現在ではビデオカードの他にも、SSDなどの製造販売を行っている。
同社のビデオカードは、最近ネット界隈では“謎の半導体メーカー”と話題になった、GPUトップシェアメーカー「NVIDIA」の「GeForce」シリーズを採用した製品で、ゲーミングユーザー向けの「GameRock」シリーズ、オーバークロック向けの「JetStream」シリーズなどの製品をラインナップしている。
今回筆者は台湾・台北市にあるPalitの本社で担当者にお話を伺う機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。GameRockシリーズの最上位製品であるGeForce GTX 1080 Ti GameRock Premiumに採用されている独自設計の冷却ファンとPCB、そこには2つの秘密が隠されている。
1988年に創業して30年以上にわたって
PCコンポーネントを製造してきた老舗
Palitは1988年に創業され、以来30年近くPCコンポーネントのメーカーとしてビジネスを続けてきた老舗メーカー。日本ではあまり知られていないが、台湾でビデオカードのビジネスを始めた最初の会社の1つで、現在グローバルにいくつかのブランド名でビジネスを行っている。
1つはPalit自身のブランドでのビデオカードで、それ以外にも同社の関連会社がビデオキャプチャカードのビジネスも行っており、日本のメーカーの製品をOEM生産したりしているという。また、香港ベースのビデオカードメーカーとして知られている「GALAXY」も同社の子会社で、同じグループとしてそれぞれ別に運営されているという。
現在の主要なビジネスはNVIDIAのAIC(Add In Card)パートナーとして、ビデオカードを販売するビジネスだ。主な市場としては日本、欧州、中国、そして東南アジアなどにPalitブランドのビデオカードを輸出しているという。
ユニークなことに、Palitは地元である台湾ではPalitブランドのビデオカードを発売していないという。Palit Microsystems 製品マーケティング部 部長 ジョナサン・イー氏によれば「台湾は市場が決して大きくないので、弊社では海外市場にフォーカスしている。また、弊社はOEM/ODMビジネスとして他のブランドのために製品を生産しており、市場によってはそうした他社のブランドで展開しているところも少なくない」と、必ずしも自社ブランドにこだわっている訳ではないと説明する。
ビデオカード以外にもSSD製品を自社ブランドで展開している
Palitによれば、製品の開発は本社がある台湾で行われ、製造は中国の深センにある自社工場で行う。完成した製品は香港のロジスティックセンターに集約されて世界各地に出荷する体制が取られているという。
日本には2007年の7月からドスパラと契約して販売をスタートし、もうすぐ丸10年という節目を迎えることになる。日本ではドスパラを国内代理店として、ドスパラがサポートを提供する体制で製品を展開している。
年々メーカーの独自性を出しにくくなっている
ビデオカード、それでも差別化は可能
そうしたビデオカードのビジネスに長年取り組んできたPalitだが、近年はビデオカードメーカーにとっては、独自性が出しにくい状況が続いている。というのも、AMD、NVIDIAというGPUメーカーの製品展開がまずはリファレンスデザインに基づいたボードをAICパートナーに供給し、その後GPU単体をビデオカードメーカーに提供するという形になっているからだ。リファレンスボードはNVIDIAが設計した標準的なデザインの製品なためメーカーごとの個性はだせない。
PalitのパートナーであるNVIDIAを例に取ると、まずはNVIDIAがFounders Editionと呼ばれるNVIDIAのリファレンスデザインに基づいたボードを各AICパートナーに卸し、各ビデオカードメーカーが販売する。その後、各メーカー独自に設計したPCB(基板のこと)、冷却ファンなりを備えた製品の販売が始まるという形で販売が行われている。
Palit Microsystems マーケティング部 ノーマン.H.Y.リャン氏(左)、Palit Microsystems 製品マーケティング部 部長 ジョナサン・イー氏(右)
イー氏は「NVIDIAからデザインガイドやGPUのサンプルを受け取ってから出荷可能になるまで、短い期間しかない。その間に、独自性があり、しかも出来るだけ速く製品を出荷することが重要」と述べ、Palitとしてもその短い期間でできるだけユニークな製品を開発して、市場に投入することを心掛けているという。
実際、NVIDIAがAICパートナー向けに製品のサンプルやデザインガイドを渡してから、AICパートナーがオリジナルのボードを出荷するまでの期間は年々短くなっており、各AICパートナーの経験なり、ノウハウをどれだけ発揮できるかということが大事になりつつある。
Palit Microsystems マーケティング部 ノーマン.H.Y.リャン氏によればPalitは、台湾のオフィスに開発センターを設け、そこで、PCBの設計なり、冷却ファンの開発を行っているという。
「弊社には15年以上の経験があるエンジニアが多く、ずっとビデオカードの設計に携わってきた。重要な事は正しいコンポーネントを選択し、それを製品に落とし込んでいくことだ」(リャン氏)と、Palitの設計思想を語る。
同じGPUを使っている以上、差別化できるのは、PCBの品質そのものだったり、電源回路の設計や、その電源回路に利用する部品の品質管理を行うという“こだわり”が重要になり、かつそれをタイムツーマーケットで他社よりも早く製品化して投入するという相反する2つの命題を実現しなければならないのだ。それをカバーするのが、同社が抱えているビデオカードの設計経験が15年以上というベテラン揃いのエンジニア達だとリャン氏は説明した。
ユニークなデュアルBIOS機能、
オーバークロックに失敗しても大丈夫!?
では、その“こだわり”の部分とはなんだろうか。Palitのリャン氏によれば、PCBに関しては電源周りにMOSFETを採用し、安定して電力を供給できるようにしているという。
また、もう1つのユニークな設計としては、いわゆるデュアルBIOS機能がある。ビデオカードにも、BIOSと呼ばれるファームウェアが用意されており、オーバークロッキングツールなどはそのBIOSの設定を調整して、GPUやメモリのクロック周波数、電圧などを上げたり下げたりできる。
しかし、間違った設定にして起動しなくなったりすれば一大事。運良く起動して元の設定に戻せればいいが、戻せない場合は修理行きということも珍しいことでは無い。そこで、PalitのGeForce GTX 1080 Ti GameRock PremiumにはデュアルBIOSが採用されている。
Palitのリャン氏によれば「問題が発生したときには、基板の裏側に用意されているセーフBIOS側に設定を変更してブートすれば、標準の設定で起動できる。その状態でプライマリBIOSの設定をリセットすれば、修理に出さなくても起動できる」という機能。
実際、GeForce GTX 1080 Ti GameRock Premiumには背面にスイッチが用意されており、それでプライマリーBIOSとセーフBIOSが切り換えられることのことだった。
特許を取得した独自開発冷却システム「TurboJet4」
従来のダブルファンに比べ、回転方向の異なる二つのファンによって気流の拡散を抑制し、空気の流れを集中化させて静音性と冷却効率をアップ。
従来のダブルファンに比べ、回転方向の異なる二つのファンによって気流の拡散を抑制し、空気の流れを集中化させて静音性と冷却効率をアップ。
同社の最上位製品となるGeForce GTX 1080 Ti GameRock Premiumに採用されている冷却システムもユニークだ。同社が“TurboJet4”と呼んでいる熱設計ソリューションが採用されており、搭載されている独自のファンは、同社が特許を取得するまで力を入れて開発したものとなっている。
TurboJet4のファンは自動車のターボのタービンに採用されているような形状のブレードを採用し、より多くのエアフローをヒートシンクに送り込むことができるように工夫されている。
さらに、外から見ると、TurboJet4には2つのファンがあるように見えるのだが、実は2つではなく、さらにファンの下にそれぞれもう1つのファンが隠されているのだ。つまり合計4つのファンがあることになる。
よく見ると、2つのファンが重なっていることがわかる。
上のファンは空気を吸い込む役目を果たしており、下側のファンはノイズを最小化し、効率よくヒートシンクに風をあてる役目を果たしている。ポイントは上のファンと、下のファンは回転方向もブレードの形も違うということだ。
Palitのリャン氏は「回転方向を変えているのは、それにより耳障りなノイズを削減する効果があるから。こうした手法はデータセンター向けのサーバーなどで使われている手法だが、ビデオカードで採用したのはこの製品が初めてだと思う」と、その効果を説明する。
同様の手法はノートPCなどでも使われることがあり、回転数や方向などを変えることで、異なる周波数の音を発生させ、それぞれがノイズを打ち消す。そうした理屈でノイズをおさえることが可能になるのだ。
なお、同じGeForce GTX 1080 Tiを搭載したシリーズでもGeForce GTX 1080 Ti Super JetStreamのファンは見た目どおり2つで、その2つのファンの回転の方向を変えるという手法でノイズをおさえるようになっている。
これは、GameRockシリーズはゲーマー向けで安定性重視なのに対して、JetStreamシリーズはオーバークロッカー向けのため、ノイズ対策よりはクロックを上げることなどを重視した設計になっているのだという。
この他にも、「0-db」と呼ばれる機能も用意されており、ある程度の温度(摂氏60度)以下になると、冷却ファンを完全に止めてしまうという。
例えば、PCゲームではなく、PCをOfficeアプリケーションで使っている場合などはほとんどGPUが使われていないのでGPUの温度は低い。このような場合は「0-db」機能によって冷却ファンの回転は止まる。不必要な時にファンの回転を止めることで、ファンの寿命を延ばし、ひいては製品の寿命を延ばすことも可能になる。
ピリッと小粋なPalit、
ビデオカードメーカーとしての実力は折り紙付き
このように、Palitという会社は、マザーボードを販売していないビデオカードメーカーということもあり、正直日本の自作PCの市場での知名度はこれまで高いわけでは無かった。
しかし、実際に製品を見ていくと、ユニークな機能だったり、便利な機能だったりを搭載しており、こだわりのユーザーも満足させる製品をリリースしている。
他とは違う、NVIDIA GPUを搭載したビデオカードが欲しいというユーザーであれば、これを機にPalitのビデオカードも選択肢に入れ、検討してみてはいかがだろうか。
NEB108TH15LC-1020G
GeForce GTX1080Ti 11GB
GameRock Premium
特許を取得した冷却システム「TURBO JET4」機能を備えたPalitの最新ハイエンドビデオカード