【VRパラダイス ゲームレビュー】
 夕方の教室で怪談話を読むだけで、異様に怖いVRノベル「夕鬼 零 Yuoni: Rises」

Reported by 石田賀津男

 今回紹介するのは、VRノベルソフト「夕鬼 零 Yuoni: Rises」。デジタルなノベル作品と言えば、映像や音声の演出とともにテキストを読み進めていくような内容だが、本作はVRコンテンツとして制作されている。現在はSteamで配信されており、HTC ViveとOculus Riftに対応している。Windows MRでの検証も行われているほか、Nintendo Switchでも発売予定となっている。

 VRノベルと言うと、場面の背景として描かれる世界がVR空間で描かれ、プレイヤー自身がその空間に入り込み、3Dのキャラクターが登場し、そこにテキストが表示される……といったようなものを想像するかもしれない。しかし本作はそうではない。

 ソフトをスタートすると、誰もいない夕暮れ時の教室が現れる。プレイヤーは椅子に座り、机に置かれたスケッチブックを開いて、そこに書かれたノベルを読む。つまりノベルの作品世界に入り込むのではなく、ただ夕方の教室で座って本を読んでいるだけの体で、物語自体はスケッチブックに書かれた読み物として進行していく。

 操作に使用するのはコントローラー1つで、トリガーを引くとノベルを読み進められる。トリガーを長く引いたままにすると、前に戻って読み直すこともできる。これ以外の操作はないが、周囲を自由に見渡すことはできる。立ち上がったり、机の中を覗いたりと、ある程度は動けるようになっていて、リアルに描かれた教室の様子も堪能できる。

 物語の舞台は平成初期、90年代の日本。主人公となる小学5年生の少年と少女は、たわいもなく語りあっていた怪談の世界に、自らも引きずり込まれていく。なおゲーム的に選択肢を選ぶようなものはなく、純粋な読み物としてのノベル作品である。

 本作において最も期待して欲しいのは、演出面だ。物語的にも演出的にもあまりネタバレはできないが、何も言わないでは伝わらないので少しだけ語りたい。

 ノベルを読み進めて教室のシーンに移ると、VR空間の教室にもうっすらとした人影が現れる。そしてノベルを読み進めてシーンが進むと、人影も消えてしまう。

 夕方の教室なのだから、本当に誰かが居てもおかしくはないのだが、描かれているのはあくまで輪郭が見える程度の人影でしかない。ノベルの中で教室に人が来ていることをイメージさせるための演出なのだろう。

 ここまで言ってしまうと、他にどんな演出があるのかも少しは想像がつくだろう。特に筆者のように、何十年もゲームをプレイしてきた上で、数々のVRゲームも触ってきた身としては、VRのホラー系コンテンツは「こんな感じで怖がらせたいのだろうな」と予想できてしまい、冷めた目で見てしまいがちだ。そしてその予想は概ね当たっていた。

 ……にも関わらず、いくつかのシーンで鳥肌が立つような怖さがあった。それは目をそむけたくなるようなスプラッター映画の怖さではなく、大声とともに何かが飛び出して驚かせに来るお化け屋敷の怖さでもない。一瞬で背筋が凍るような怖さだ。

 出てくるものはVRのコンテンツに過ぎず、現実にそんなものはないと頭でわかっていても、なお怖い。しかも同じような演出が2度出てきてもやっぱりゾクっとさせられる。映像的な見せ方だけでなく、音もうまく使っているし、物語自体も緊張感があって面白い。全ての相乗効果で、怪談の怖さをVRならではの形で引き出している。

 VR空間としては、最後までほぼ教室で椅子に座ったままだし、物語はスケッチブックの上のテキストと、その背景に見えるちょっとしたイラストで描かれるだけだ。開始直後は、「これをわざわざVRでやる必要があるのか?」と思う人も多いのではないかと思う。しかし、読了すればイメージは変わる。

 物語の舞台は平成初期をイメージしたそうだが、プレイヤーがノベルを読む教室がいつの時代とは語られていない。机は並べてはあるもののかなり古ぼけていて、夕日に当たって小さな埃が舞うのも見える。しばらく使われていない教室なのだろうかと思わせる。陰影のメリハリが効いた映像はかなりリアルで、飛んでいる埃が鼻に入りそうな気がしてムズムズするほど。

 そこでノベルを読むのに集中していくと、VRの世界へ急速に没入していく。ただ教室に立っているだけでは、いろんな場所に意識が散ってリアリティを感じにくいが、ノベルを読むことに集中する分だけ周囲への注意力が薄れてVR空間のリアリティが増す、という効果があるように感じる。

 そんなリアルな教室で1人、怪談のようなノベルを読む。物語の中で教室に関わる場所が出てくると、もしかして後ろに何かがいるのでは、とスケッチブックから目を離して振り返ってしまう。怪談を聞くと、暗がりに何かがいるような気がして怖くなる感覚が、読み進めている間はずっと続く。

 明暗のはっきりした夕方の教室で1人という状況が、ノベルの世界とマッチし、時にリンクして、怖さを助長している。ノベルの世界を直接VR空間として描いたVR作品であれば、この怖さは表現されなかったと思う。

 普段の筆者は、「怪談なんて非現実的なものを」とドライに見てしまうタイプで、怪談を含めたホラー作品は全く好みではない。それを踏まえても、この演出のうまさには恐れ入りましたと言わざるを得ない。どううまいのかを語るとネタバレになるので伝えきれないのがもどかしいのだが、本作がVRの多様な表現力を感じさせてくれる1作だということは強く述べておきたい。

 物語としては、夏休み前の小学生が怪談の世界に誘われるのだが、過度なホラー表現はない。どちらかと言えば、少年と少女が奇妙な世界で必死に頑張る姿と、その内面に抱えている悩みを描く作品になっている。青春と言うにはまだ早く、大人になろうと背伸びする子供の姿も、うまく描かれていると思う。