【VRパラダイス ゲームレビュー】
 360度3D写真の中で動ける! Googleの実験的VRアプリ
「Welcome to Light Fields」

Reported by 石田賀津男

 VR、バーチャルリアリティという言葉は、非現実の仮想空間を連想させる。しかしVRは何も非現実に限ったものではない。360度カメラで撮影した写真は、あたかもその空間に入り込むような感覚で楽しめる。あるいはライブ会場に設置された3Dビデオカメラの映像をリアルタイムに視聴し、その場の雰囲気まで楽しめたりもする。時間や距離を超えるという意味での仮想空間もVRには重要な要素だ。

 今回ご紹介する「Welcome to Light Fields」は、Googleによる3D写真を楽しめるVRアプリ。「Light Fields(ライトフィールド)」という独自システムで撮影された写真を、VRヘッドセットで楽しめるというものだ。細かい説明は後にして、内容を見ていきたい。操作はコントローラーが1つで足りる。立位ではなく、椅子などに座った状態で利用するのがいい。

 アプリをスタートすると、タイトル画面が表示される。その下にメニューがあるので、「Guided Tour(ガイド付きのツアー)」を選択する。ガイド音声は英語だが、何が起こっているかは見ればわかるのでご安心を。

 最初に「Light Fields」とは何かという説明が流れる。平面の2D写真、立体に見える3D写真に続いて、「Light Fields」の映像はこうだ――と、タイトル画面の空間に色がついていく。最初は白単色のポリゴンで描かれた空間だったが、実際はどこかのスタジオで撮影された「Light Fields」による3D写真だった、というわけだ。

 続いて、様々な場所で撮影された「Light Fields」の映像が流れてくる。無数のタイルに彩られた家、和風の装飾が施された家、大きなステンドグラスが掲げられた教会。どれもとても精細な立体映像で、光の表現が美しい。次々と美しい空間へと放り出されるような感覚だ。

 ここで「Light Fields」とは何かを説明しよう。ここまでは3D写真という呼び方をしてきたが、「Light Fields」と一般的な3D写真には決定的な違いがある。

 「Light Fields」は16台のカメラを扇型に並べ、回転させながら多数の写真を撮影している。これを合成して、1枚(という単位がふさわしいのかはわからないが)の3D写真を作り出している。これにより360度どの方向を見ても、立体的な写真を楽しめる。ただ、360度方向の3D写真を撮影できるカメラは既に市販されており、「Light Fields」の専売特許というわけではない。

 「Light Fields」がユニークなのは、カメラが回転する内側のおよそ70cmの球体状の空間を、利用者が移動できるという点だ。ただし移動と言っても、歩いたり立ち上がったりはできず、体を前後左右に少し動かせる程度に過ぎない。

 だが、僅かでも体を動かせるという効果は絶大だ。わかりやすい例として、2枚の画像を見比べていただく。

 上にある2枚の画像は、同じ1枚の写真で生垣を見たものだが、見ている筆者が少し動いている。一方は太陽の光が生垣に遮られているが、もう一方は太陽の光が生垣から外れてまぶしい光が見えている。筆者の体験としては、「頭を動かすと、太陽の光が生垣から見えたり隠れたりする」という感じになる。

 現実世界では当たり前のことなのだが、VRではなかなかこうはいかない。一般的な360度の3D写真は、カメラの位置、すなわち写真を見る人の視点が固定になっているので、いくら頭を動かしても視点が変わることはない。写真の中で少し動けるというだけで、VR空間への没入感は格段に上がり、静止画であるにも関わらず、まさに自分がそこにいるかのような錯覚に陥る。

 このように「Light Fields」の仕組みそのものが斬新で、素晴らしいVR体験をもたらしてくれるものであることは間違いないのだが、「Welcome to Light Fields」というアプリとしての魅力はまだある。タイトル画面から「Gallery」を選ぶと、「Guided Tour」には含まれていないものも合わせて数十枚の写真を見られる。それらのチョイスがまた素晴らしい。

 筆者がまず注目したいのは、スミソニアン国立航空宇宙博物館に展示されているスペースシャトル・ディスカバリー号の写真。外観はもちろん、内部も撮影されている。狭い中に無数のスイッチが並ぶコックピットも、リアルな映像でじっくりと見られる。筆者は生粋の宇宙科学好きだが、これを見るためにアメリカまで行くのは難しいし、ましてやコックピットまで入ることはできない。それを本当にその場にいるかのように見られるのはとんでもない価値があるし、VRの素晴らしい活用法だと思う。

 どこかの家の中の写真も印象的だ。ただ生活感のある屋内を撮影しただけなのだが、その場所と時間に生きている人が存在したと感じられる。写真は時間を切り取るものだと言われることがあるが、これはその場所に思いを馳せるとか、当時を思い出すとかいうものではない。その時間と空間に自分が居るという感覚になる。写真から得られる感覚とは全く違う。

 そして老夫婦の写真も素晴らしい。タイル張りの家で撮影された夫婦の写真は、ただ2人で座っているだけの写真に過ぎないのだが、アプリの中ではまるで2人が手の届く距離に居るように見える。この家で、この空間で、夫婦は生きてきたのだろう。願わくば自分もこんな写真を残しておきたいと思う。

 美しい写真は他にも何枚もある。だが、筆者はどちらかと言えば、見も知らぬ雑多とした家の中や、老夫婦が座っているだけの何気ない風景にこそ感動があった。美しい写真の場所に行くことはできるかもしれないが、その人の、その家の、その瞬間はもう見ることができないから……なのかもしれない。実は筆者自身、理由がよくわかってはいない。

 このアプリは「Light Fields」の技術デモとして作られたものであることは明らかだ。無料であることもその証だろう。とはいえ、技術畑の人に限らず、万人にVRの可能性を感じさせてくれる素晴らしいコンテンツだ。ちなみにタイトル画面から選べる「Credits(スタッフリスト)」は、「Light Fields」で撮影された写真が使われており、スタッフと思しき人がくつろいでいる様子が映されているのが面白い。

 「Light Fields」自体は、特殊な機材を使って千枚単位の写真を1枚に合成したもののため、撮影も写真の閲覧もかなりの力技ではある。ただそれだけに写真の解像度は高く、筆者が使っているHTC VIVEでは解像度が足りないと感じるほど。より高い解像度のデバイスを手に入れた暁には、再びこのアプリを試してみたいと思う。