自作PCに回帰する!? 「Devil's Canyon」と「Pentium 20周年モデル」からわかるIntelのプロセッサ戦略 Text by 笠原一輝

デジタルと言えば、すっかりモバイル一色の昨今、自作PC派の肩身は益々狭くなるばかりだが、そうした状況も段々と変わりつつある。これまでモバイルへの傾倒を強めていたコンポーネントベンダが、自作PC市場への取り組みを強化しているからだ。そのキーワードは2つ。1つは“ゲーミングPC”であり、もう1つが“オーバークロッキング”だ。

そうした市場の新しいトレンドを象徴しているのがIntelがリリースした2つのデスクトップPC向けプロセッサである。それが開発コードネーム“Devil's Canyon”(デビルズキャニオン)で知られる第4世代Coreプロセッサ 4790Kと、Pentium Anniversary Editionだ。前者はHaswell Refreshの開発コードネームで知られる第4世代Coreプロセッサの最新版かつ最上位グレードになる製品で、後者は1994年に販売が開始されたPentiumプロセッサが20周年になるのを記念して発売された製品となる。

Intelの新戦略を象徴するDevil's Canyonこと第4世代Coreプロセッサ最上位モデルである「Core i7-4790K」の実際の製品を見ていきながら、Intelのデスクトッププロセッサ戦略に関して考えていきたい。

●CPU/GPUメーカーが自作PCを重視する方へ舵を切る

2012年~2013年にかけて、PC向けのCPU/GPUを製造するメーカー(具体的にはAMD、Intel、NVIDIAの3社だが……)の目は、いずれもモバイル向けの半導体へ向かいつつあった。言うまでもなく、スマートフォンやタブレットの普及により、モバイルが世の中のトレンドになりつつあったからだ。

例えばIntelはデスクトップPC向けのソリューションを、AIO(液晶一体型デスクトップPC)向け中心にと舵を切った。Intelが今年の末から来年の前半にリリースを予定している次世代プロセッサ「Broadwell」では、LGAソケット用の通常版のデスクトップPC向けSKUは用意しないと決断されたのもこの頃だし、その後さらにIntelは自社ブランドで提供していたDesktop Board(Intelブランドのマザーボード)のビジネスを終息させ、NUC(Next Unit of Computing、日本ではナックと発音する)という超小型ベアボーンだけを継続するという決定がなされたのもこの頃だった。Intelとしてはそうした戦略をとることで、伝統的なタワー型PCなどをAIOへとスムーズに移行したいという意向があったものと考えられている。

だが、2014年に入って潮目は完全に変わったと言ってよい。その背景には、プラットフォームベンダがデスクトップPC、中でも自作PC市場の価値を再定義したということがある。AMD、NVIDIAはいずれも自作PCをゲーミングPCのプラットフォームと定義しており、ハイエンドのゲームをプレイする環境としての自作PCの価値が見直されつつある。

これに呼応するかのように、Intelも今年に入って戦略を転換しており、より魅力的な製品を自作PCに投入する方向性にロードマップを転換しているのだ。その第1弾として登場したのが、今回紹介する第4世代Core i7プロセッサ 4790K(以下Core i7-4790K)と、Pentium Anniversary Editionである「Pentium G3258」だ。

●Pentium G3258は「倍率アンロック」されている

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Pentium G3258は、1994年に発売されたPentiumが発売20周年を迎えるに当たって設定された特別版だ。最大の特徴は、CPUクロック周波数を決定する倍率のロックが外されていることである。CPUのクロック周波数というのは、マザーボードから供給されるベースクロックに対して、特定の倍率を掛け合わすことで決定されている。例えば、Pentium G3420の場合は、ベースクロックが100MHzで倍率が32倍となり、

100MHz×32=3200MHz=3.2GHz

という計算になっている。通常の製品ではこの倍率はユーザーがマザーボード側のパラメータをいじって変更できないようになっている(つまりロックされている)のだが、このPentium G3258ではそれがアンロックされており、ユーザーの任意の数字に変更することができる。倍率ロックされているCPUでオーバークロックする場合には前述のベースクロックを上げてオーバークロックするのだが、この場合はマザーボード側の耐性がどれだけあるか次第になってくるので、より難易度が高くなる。これに対して倍率を変更する方は、CPUさえ冷却できれば比較的容易にオーバークロックができるというわけだ。

倍率アンロックは上位モデルのCoreプロセッサでは、プロセッサナンバーの末尾に“K”がついたSKUでのみサポートされてきており、低価格向けとされてきた最近の「Pentium」や「Celeron」ブランドではそうした機能が実装されることはなかったのだ。しかし、Pentium G3258はPentium発売20周年を記念しているモデルとして設定されたため、“K”がついていなくても倍率アンロック機能を“特別に”搭載した製品ということになる。

●倍率アンロック、4コアすべてが4GHzとなっているDevil's CanyonことCore i7-4790K

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Core i7-4790Kのパッケージ

そしてもう1つが、Devil's Canyonという厳めしい開発コードネームがつけられたCore i7-4790Kだ。製品にはDevil's Canyonというコードネームがつけられているが、CPUダイのコードネームは「Haswell Refresh」(ハスウェルリフレッシュ)で、昨年発売開始された「Haswell」の改良版となる。改良版といっても機能そのものはHaswellと一緒で、新ステッピングと呼ばれる回路などが改良されることにより高い周波数で動かすことができるようになったバージョンのことを意味している。

Core i7-4790Kの特徴は、もちろん末尾に“K”がついたSKUになるので、倍率アンロック版であることがあげられる。それに加えて、4つのコアがすべて4GHzで動作する仕様になっていることも注目点だ。これまでの製品でも、一時的に1つのコアだけが4GHzを超える「ターボブースト」機能を備えたものは存在していたが、IntelのCPUで4つのコアのベースクロック(つまり通常時のクロック)が4GHzになっている製品は存在していなかった。このため、ターボブーストが有効になっている場合には、4GHzを超えるクロック周波数になることもある。ただしその場合は、4つのうち1つか2つだけということが多い。

また、Core i7-4790Kはパッケージ(CPUのダイを貼り付ける基板と、ヒートスプレッダと呼ばれるCPUファンが接地する金属部分)が見直されており、より電力的に余裕を持たせるため基板底面にキャパシタを追加し、さらにヒートスプレッダとダイの間にあるグリスの素材が見直され、より熱伝導率が良い素材へ変更されている。Intelによればこれらにより従来の製品よりもオーバークロック時の耐性がよくなっているという。

左側が従来の第4世代Core i5-4570S、右側が新しいCore i7-4790K。キャパシタが増えていることがわかる
左側が従来の第4世代Core i5-4570S、右側が新しいCore i7-4790K。キャパシタが増えていることがわかる

さて、Core i7-4790Kはすでに発売もされており、そのオーバークロック耐性などは多数のレポートがあがっているので、ここでは数年前の自作PC環境と比較してどれくらい性能があがっているかをチェックしてみた。比較対象として用意したのはCore2 Duo E8400(3GHz、デュアルコア)で、チップセットはIntel G45 Express Chipsetで構成されている2008年に発売された売れ筋構成の製品だ。この6年前のプラットフォームと、現在の最高峰となるCore i7-4790Kがどの程度性能が違うのかをチェックしたい。



CPU Core i7-4790K Core2 Duo E8400
チップセット QS87 G45
マザーボード ASUS CS-B Intel GD45IG
メモリ 4GB 2GB
ストレージ Intel SSD 520 240GB
OS Windows 7 Ultimate(SP1)64ビット Windows 7 Ultimate(SP1)32ビット

表1 テスト環境

【グラフ1】PCMark8 v2.1.274
【グラフ1】PCMark8 v2.1.274

【グラフ2】3DMark  v1.3.708 Ice Storm Unlimited
【グラフ2】3DMark v1.3.708 Ice Storm Unlimited

テストには総合ベンチマークスイートの「PCMark8」と、3Dベンチマークの「3DMark」を利用した。前者は家庭向けのテストとなる「Home」とビジネス向けのテストとなる「Work」、後者は比較的軽めなテストとなる「Ice Storm Unlimited」をテストした。

PCMark8のテストに関しては、Workのスコアが2.4倍、Homeのスコアが2.3倍という結果になっている。一般的にこういうベンチマークテストで2倍以上の差が出るとユーザーにも体感でわかるものだ。実際、Workテストを実行するのにかかった時間はCore2 Duo E8400が1時間54分だったのに対して、Core i7-4790Kは27分程度で終わってしまった。それだけを見ても、大きく性能が向上しているのわかるだろう。

3DMarkに関してはもっと差が大きく、総合スコアで5.6倍、CPUの性能が反映されるPhysicsのスコアでは2.62倍となっている。総合スコアが大きく向上しているのは主に内蔵されているGPUが大きく進化していることを示している。

●今後は自作PC向けだけに「Broadwell-K」が投入される

以上のように、Core i7-4790Kは6年前の売れ筋CPUと比較して、大きな性能向上を果たしていることがわかる。特に内蔵GPUは大きな性能アップを実現しており、Core2 Duo E8400時代の内蔵GPU(G45)に比べて5倍以上の性能を実現しているほか、Direct3D 11(いわゆるDirectX 11)やOpenCL 1.1、QSV(Quick Sync Video)による高速エンコーディングなど、G45の内蔵GPUなどにはなかった機能にも対応していることも見逃せないメリットだ。

Core i7-4790Kの特徴は倍率アンロックによる容易なオーバークロックだが、重要なのは同じく倍率がアンロックされているPentium G3258と同じくオーバークロックを楽しむことができる上に、より高い性能を手に入れることができるという点だ。

今後も、Intelは自作PCユーザー向けの製品を拡充していく。すでに述べたように、Intelは同社が開発中の次世代プロセッサ“Broadwell”のデスクトップPC版(つまりLGAソケット版)は当初提供しないというロードマップだったのが、自作PCユーザー向けだけに「Broadwell-K」という開発コードネームの“K”SKUの製品だけを提供する計画に変更している。つまり、Intelとしても自作PCユーザーは大事にしていきたい、そういう方向に再び戻ってきたということだ。自作PCユーザーとしては素直に歓迎して良いのではないだろうか。

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