早稲田大学、GPUを使ってMOSトランジスタの集積化限界を予測~「GeForce GTX 690」を使った普通のPCで半導体シミュレーションの統計的解析が可能に

早稲田大学理工学術院 渡邉孝信教授、同 大学院 先進理工学研究科 修士課程2年の鈴木晃人氏らは、汎用のGPUを使ったシミュレーションによって、微細化が進むMOSトランジスタの集積化限界を決める要因がどこにあるのかを明らかにすることができたと発表した。MOSトランジスタのソース・ドレイン内の不純物の原子レベルの配置が引き起こす特性のばらつきが、LSIの集積化限界を決める大きな要因になっているという。

GPUで半導体シミュレーション

現在修士課程の鈴木氏が卒業研究の頃から独自開発した手法を使った成果で、米・サンフランシスコで12月15~17日(現地時間)に開催された「国際電子デバイス会議(IEEE International Electron Device Meeting;IEDM)」にて発表された。大学院生が普通に市販されているPC用のGPUを使って行ったという点も今回のポイントだと、指導した渡邉孝信教授は会見で述べた。

早稲田大学大学院 先進理工学研究科 修士課程2年 鈴木晃人氏
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 修士課程2年 鈴木晃人氏

■トランジスタ性能のばらつきと集積化限界の問題

GPU(Graphic Processing Unit)は高速画像処理が必要なゲーム機には必ず搭載されているチップだ。GPUには数千個のコアプロセッサが集積されており、同じ演算の繰り返し、並列計算に適しているからだ。GPU活用によって、リアルなCGなどが作成できるようになった。

今回の発表は、GPUの並列計算性能を半導体シミュレーションに応用したというもの。半導体LSIの世界では、基本素子であるMOSトランジスタの微細化によって集積度が非常に高くなっている。それによって動作速度が向上し、消費電力も低下してきた。だが一方で、微細化が進むに連れてリーク電流の問題や、加工の難しさも課題になっている。

電子や不純物が粒子であることの影響も無視できなくなっているという。連続体として扱うことができないため、MOSトランジスタ内の電子や不純物間に働く力を全て計算する必要がある。

また、LSIとして集積したときの、個々のMOSトランジスタの特性ばらつきの影響も考慮しなければならない。同じ電流特性をすべてのトランジスタが持つことは難しい。数個のトランジスタの性能が足を引っ張って、回路全体の性能が落ちてしまうのだ。

その限界を明らかにして、MOSトランジスタの集積化の限界を知るためには、単に一つのデバイスだけのシミュレーションを行うのではなく、多くのデバイスで何が起こるかを知る必要がある。そして一つ一つのデバイスモデルに対して、数十回の統計的解析を行う必要がある。そのため、粒子ベースの半導体シミュレーターの大幅な高速化・大規模化が必要だった。

なお、実際に使ったGPUは市販のNVIDIA「GeForce GTX 690」搭載カードだ。

NVIDIA「GeForce GTX 690」
NVIDIA「GeForce GTX 690」

■GPUで半導体シミュレーションの統計的解析が可能に

今回の研究では、リーク電流に強い構造として注目されている「ナノワイヤ型」のMOSトランジスタに含まれている全ての電子や不純物を粒子として扱うシミュレーターの開発を行い、原子レベルの配置の違いが引き起こすデバイスの特性の統計的解析を行った。

トランジスタ内の電子の軌跡を全て計算することで、動的な電流揺らぎの解析を行うこともできるようになった。鈴木氏が開発した手法によって、従来の計算に比べて10倍以上高速に電子一つ一つの計算が行えるようになったという。

http://youtu.be/QPNgcckYbgQ
電子数およそ2万個、不純物およそ2万個のシミュレーション。GPUによる大規模計算の可能性をアピールするために作成したもの。論文中のデバイスモデルとは異なる。

■微細化するとソース・ドレイン内の不純物の位置ゆらぎが問題に

不純物イオンの位置による電流ばらつきと界面トラップによる電流ばらつきの比較を行った
不純物イオンの位置による電流ばらつきと界面トラップによる電流ばらつきの比較を行った

LSIの高集積化を阻む特性ばらつきの原因としては、ソース・ドレイン内の不純物イオンの位置の違いによる統計的ばらつき(SD-RDF)と、トランジスタを覆う絶縁膜中に電子が捕獲あるいは放出されることによって生じる動的な揺らぎである「ランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)」の2つが考えられていた。

不純物イオンの位置による電流ばらつきの問題のほうが大きかった
不純物イオンの位置による電流ばらつきの問題のほうが大きかった

今回の研究で両者の影響を比較した結果、ソース・ドレイン内の不純物の位置の違いによる電流ばらつきのほうが「ランダム・テレグラフ・ノイズ」による電流ばらつきよりも圧倒的に大きく、集積化限界を決めるのは不純物によることが分かった。

つまり、これまでは問題がないと思われていたソースとドレインにおいても不純物をなくさないと集積化は難しいということだ。これは専門家たちのこれまでの常識とは異なった結果で、驚きだったという。

■将来は品質管理に

スーパーコンピュータを使って半導体内シミュレーションをやっているグループは海外にあるが、汎用PCを使った例はないという。渡邉孝信教授は、今回の汎用PCを使ったシミュレーター開発の成果について「数年後の話」と断りつつも、「複数デバイスのシミュレーションまで持っていければ、本当に品質管理に使えるのではないか」と語った。

早稲田大学理工学術院 渡邉孝信教授
早稲田大学理工学術院 渡邉孝信教授

Text by 森山和道

ニュース

ページトップへ