攻殻機動隊は現実化できるのか~「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」レポート

2014年11月12日、NTTドコモ・ベンチャーズが投資・起業支援を行っているベンチャー企業を集めたイベント「NTTドコモ・ベンチャーズDay」が六本木の泉ガーデンギャラリーにて開催された。そのなかでゲストセッションとして「攻殻機動隊」をテーマにしたパネルディスカッション「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」が行われた。本誌ではその様子をレポートする。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

司会はNTTドコモ・ベンチャーズ取締役副社長の秋元信行氏。秋元氏は、マンガ/アニメの「攻殻機動隊」について、現実が「攻殻機動隊」の世界を追いかけていると述べ「実現に向けてどこまで来ているのか、本当に実現するのか、そのためにはどんな課題があるのか議論させてもらいたい」と口火を切った。

NTTドコモ・ベンチャーズ取締役副社長 秋元信行氏
NTTドコモ・ベンチャーズ取締役副社長 秋元信行氏

その他の登壇者は4名。まず出身研究室の必読書が「攻殻機動隊」だったという慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦氏は光学迷彩の開発者として著名だ。現在その研究は「透明プリウス」へと発展している。

慶應義塾大学大学院 稲見昌彦氏
慶應義塾大学大学院 稲見昌彦氏

理化学研究所 脳科学総合研究センター 適応知性研究チーム チームリーダーの藤井直敬氏は、「代替現実システム(SRシステム)」の開発者だ。過去の映像と現在の映像を混ぜることで、体験者はその区別がつかなくなる。最近は株式会社ハコスコ代表取締役として、スマートフォンを使った簡易ヘッドマウントディスプレイの「ハコスコ」をビジネスとしても展開している。

理研BSI 藤井直敬氏
理研BSI 藤井直敬氏

産業技術総合研究所 知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ主任研究員の梶田秀司氏は2足歩行、ヒューマノイドの研究者。2009年に開発された女性型ロボット「HRP-4C」がもっとも有名だ。

産総研 梶田秀司氏
産総研 梶田秀司氏

角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員の遠藤諭氏は研究者とは異なる立場からコメントした。

角川アスキー総研 遠藤諭氏
角川アスキー総研 遠藤諭氏

■「攻殻機動隊」と「電脳」

攻殻機動隊のキーワードは「電脳」
攻殻機動隊のキーワードは「電脳」

士郎正宗氏による「攻殻機動隊」は1989年に発表されたSFマンガ。当時はインターネットも一般には認知されていない状況だった。1995年以降アニメ化され、様々なかたちで商業展開されている。最新作は「攻殻機動隊ARISE」である。

https://www.youtube.com/watch?v=-Rv6KV334vM

いっぽう現実世界では、2016年にスイスでロボットや義手義足の技術を積極的に活用する「CYBATHLON(サイバスロン)」という競技大会が行われる。

https://www.youtube.com/watch?v=IVbag6aE7TM

CYBATHLONのトレーラー

「攻殻機動隊」のキーワードの一つが「電脳」だ。マイクロマシンを使って脳と外部インターフェイスを結合させるテクノロジーで、電脳を交換することで身体を簡単に交換できる。このようなことは可能なのだろうか。

藤井氏は「僕も考えたがそこそこのお金が必要で、そこらへんを始めている研究者はまだいない。だが技術的にできないことはない。どこかで実現するだろう」と述べた。現状の脳と機械を繋ぐインターフェイスはどこまできているかという問いかけに対して、「リアルタイムに脳の活動を読み取って意図を抽出する技術はできている。考えただけでカーソルを動かすことはできるが、歩行のような動作は難しいというのが現状だ」と答えた。また「脳のなかに電極を入れる侵襲性の手術が必要だが、そういう事例は少なく、対象が少ないと技術は進まない。だからBMIでは脳波を使うことが多いが、脳波はノイズが多く情報量が少ない」と課題を紹介した。

■「仮面ライダーの『変身』がウェアラブルですよ」

稲見氏は「JINS MEME」を着用して登壇
稲見氏は「JINS MEME」を着用して登壇

秋元氏は「対象者が限定されているのであれば、当面のマイルストーンとして、ウェアラブルという切り口もあるのではないか。電脳化に向けたファーストステップとしてのウェアラブルはどう考えるか」と続けた。

稲見氏は「ウェアラブルはあると思う」と述べた。また「身体は脳の高性能なアンプという捉え方もできる。本人が意図せず、いろんな情報を出力しているからだ」と答えた。ちなみに稲見氏はこの日もJINSと共同開発したセンサー付きの眼鏡「JINS MEME」を着用していた。

梶田氏も「現状の技術では脳に剣山電極を刺しても解析に限界があってできることが限られている。ロボットを自由自在に動かして攻殻機動隊の世界を実現できるほど技術は進化していない」と述べた。また現状の技術ではフィードバックを戻すことが難しく、脳にとっても機械にとっても情報が足らない、と藤井氏はコメントした。ただ現段階でも神経再生電極を使ってフィードバックを返してあげる研究はあって、稲見氏は被験者になったこともあるという。

ここで遠藤氏は司会進行の秋元氏に逆に問いかけを返して、「BMIにいかないと本当のウェアラブルじゃないという考えか」と問うた。それに対して秋元氏は「ウェアラブル自体は素晴らしいが、『攻殻機動隊』の世界とは違うと思っちゃう」と答えた。「最終的には意識せずに人体とネットの世界が繋がるというのが『攻殻機動隊』の世界なのかなと思っている。ウェアラブルはそこへ繋がる重要なステップではないか」と考えているという。

これに対して稲見氏は、「ウェアラブルという名前が間違えているのかもしれない。たとえば着ることができなかったパソコンを着用するのをウェアラブルと呼ぶのは違う。もっとスマートなセカンドスキンとしてのウェアラブルもある。あるいは埋め込める新規の臓器を作ったほうが結果的には早いかもしれない。仮面ライダーの『変身』がウェアラブルですよ」」と述べた。

■義体は視野に入りつつある

産総研 梶田氏
産総研 梶田氏

ここで秋元氏は「目指すところは高みであっても、ウェアラブルのようにまずはできるところからビジネスにしていくのは長期的な取り組みを続けるためには重要」と述べ、藤井氏のハコスコの取り組みについて話を振った。藤井氏は「研究者のままだったらプレッシャーは感じないが、会社にするとマネタイズも考えないといけないし、まわりの人を動かさないといけない。そのスキームを作るプレッシャーを自分に与えた」のだという。

遠藤氏は藤井氏に対して、脳への書込み、情報のダウンロードの可能性について問うたが、今の段階では書込みは全然だめで、視覚情報を脳に直接与えるのも難しいというのが藤井氏の考えだった。

秋元氏は「ヒューマノイドは義手、義足、そして義体へと繋がっていく技術なのか、それとも全くの独立なのか」と梶田氏に質問。梶田氏は「人間の筋肉の数は600くらい。おそらく随意筋だと500くらい。いっぽう我々が現在使っているモーター数は44。オーダー的には一桁の違いがある。だから悪くないと思っている。3倍してさらに3倍すればいけるくらいの難易度だから。しかも人間の筋肉には冗長的な部分もあるので、義体は視野に入りつつあると思っている」と答えた。これ以外のバッテリについても現在のロボットはせいぜい1時間だが2025年くらいには7~8時間程度は動けるようになり、そのさらに先に燃料電池が使えるようになれば無補給で3日くらい動けるのではないか、とコメントした。

一方、藤井氏から、脳からの信号を拾い出すにしても、それほど全てをなんでも拾い上げないといけないということはなくて、たとえば歩く時に筋肉の一つ一つのことを考えたりはしないように、おおむねの方向の意図だけとれば、あとは「義体」に任せてしまうという方法があり得るのではないかとコメントがあった。稲見氏もそれに同意。「我々は足というメカの上にのっているだけかもしれない。身体をちゃんと制御しているかというとそんなことはない。人のロボット的なところにはチャンスがある」と述べた。つまり脳からの信号を一つ一つ拾って動かさなくてもある程度は実現可能なんじゃないかということだ。梶田氏も同意して「義体自身がかなりのインテリジェンスをもっていて、必要なときに必要なことをやってくれるというのはありえる」と述べた。

■「草薙素子のキャリアは誰が提供しているんだろうな」

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

攻殻機動隊の世界では、脳だけを「脳殻」に入れて活かすことができる。そしてそれ以外はほとんど機械という設定だ。それはどのくらい実現可能なところに来ていると思うかという問いについては、稲見氏から「脳を活かすことは難しいだろうが、いっぽうで、脳以外の臓器を活かす技術の延長でできるようになるのかもしれない」とのコメントがあった。一方で「自分自身の身体とは切れて、他のヒューマノイドを自分の身体として動かすということには現実味がある」と稲見氏は語った。いわゆるテレプレゼンスだ。

一方、梶田氏は「いま、まさにそれに苦労している」と反論した。梶田氏ら産総研グループでは「DARPAロボティクスチャレンジ(DRC)」に出場する予定で現在研究を行っている。DRCはヒューマノイドを遠隔操作して福島第一原発のようなところで作業することを目指しているが、「ドアを通過するだけで苦労している」という。特に通信環境が悪い状況を模擬するために通信速度が9600bpsくらいに制限されている点にも苦心しているという。

通信ネットワーク速度の話が出たところで秋元氏は「攻殻機動隊の世界のネットワークはどうなっているんだろうなと見るたびに思う」と述べた。「草薙素子のキャリアは誰が提供しているんだろうなと」。遠藤氏は攻殻機動隊の世界は脳のシミュレーションなどは盛んに行われているがローカルの端末同士の通信はそれほどガンガンやられてないんじゃないかという見方を示した。たとえばクラウドで多くの処理をやってしまえばクライアントサイドで膨大な情報を常にやりとりしなくてもすむかもしれないというわけだ。現状のクラウドロボティクスと同じような考え方である。

稲見氏は、一人が複数の義体をコントロールしたりするようになって、身体と心の関係が1対1ではなく、多対多になったりすると面白いと述べた。未来のネットワークには、そういう可能性もあり得るという。藤井氏もそれは魅力的な考え方だと同意。現状でも、ロボット単体が要所要所で乗り越えられない部分にあたったら、人を呼んで、ロボットに乗り移って教えてやることで、効率のいいシステムができるのではないかと述べた。梶田氏はTwitterのように、呟くことで何か物理的な仕事ができる仕掛けがあればいいのではないかとコメントした。

■エンターテイメントの跳躍力

kk-1010332

最後に会場へのメッセージとして、稲見氏は会場の真ん中に置かれた「ロジコマ」の人形について触れたりしながら、ある映画監督の話として「95%のリアルに5%のフィクションがあると良い物語になる」という意見を紹介。会場のベンチャー企業の人たちに対して「我々の仕事はその5%をどうやってリアルにもってこれるかだと思う」と述べた。

藤井氏は「攻殻機動隊の世界では、世界がどう変わるかが語られてない。あんな世界が来たらとんでもないことが起こると思う。世界がどう変わるかも考えながらテクノロジーと寄り添ってもらいたいなと思う」と述べた。

梶田氏は「攻殻機動隊は、ヒューマノイドをやっている立場としては理想的な世界を描いているが、まだまだだいぶ遠い。日夜のたうちまわっている。是非応援して頂きたい」と述べた。

遠藤氏はアスキー総研を作るときの話として、見えているものを捉えるメディアと、見えてないものを捉えるインフォメーション、そしてエンターテイメントが重要だと考えたと述べた。エンターテイメントの跳躍力を使わないと解決できない問題があるという。そして最近流行の「IoT」についても触れて、「IoTというと縛られちゃうけど、それは魔法の世界。まったく自由な世界。それをどうするかと考えると拓けるはず。そういう意味で期待している」と語った。

最後に秋元氏は「攻殻機動隊の未来図は日々追い求めているカッティングエッジなイノベーションを秘めている。良い大人がアニメの話をするのではなく、アニメではあるものの、あそこにある未来図をどう実現していくのかという意味では面白い取り組みだったのではないか。是非応援をよろしくお願いします」とディスカッションを締めくくった。

Text by 森山和道

©士郎正宗/講談社
©1995士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
©2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

ニュース

ページトップへ