東大・竹谷教授ら、印刷製造可能な温度センサー機能付き電子タグを開発~単結晶有機半導体を使い従来比10倍以上の性能でコストは1/10を実現

国立大学法人 東京大学、大阪府立産業技術総合研究所等のグループは1月26日(月)、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトにおいて印刷で製造可能な有機温度センサーと高性能有機半導体デジタル回路を開発し、温度センシングと商用周波数での温度データ伝送に世界で初めて成功したと発表、記者会見を行った。デジタル回路を用いる低消費電力の設計と室温近くの大気中での半導体製造工程により、省エネルギーを実現できるという。

「塗って乾かすだけ」で作れる半導体で、世界で初めてデジタル伝送を実現した。従来の塗布型有機半導体よりも10倍以上の高性能、1/10以下の低コスト化が可能で、薄く軽く曲げられる。工程管理やヘルスケアなどの用途が期待されている。

省コストセンシングデバイスへの期待
省コストセンシングデバイスへの期待

この事業はNEDO戦略的省エネルギー技術革新プログラム(実施期間 平成24年度~33年度。今年度予算93億円)の一環として実施されたもので、概要はNEDO省エネルギー部主任研究員 杉村哲雄氏が解説した。

NEDO省エネルギー部主任研究員 杉村哲雄氏
NEDO省エネルギー部主任研究員 杉村哲雄氏

NEDO戦略的省エネルギー技術革新プログラム概要
NEDO戦略的省エネルギー技術革新プログラム概要

このプログラムはインキュベーション研究開発、実用化開発、実証開発に分けられており、有機単結晶デジタル回路の事業は終了後3年以内に製品化を目指す実用化開発と、速やかに製品化を目指す実証開発にあたる。それぞれ3年間、合計6年間(平成24年度~29年度)があてられている。

東京大学 新領域創成科学研究科教授 竹谷純一氏
東京大学 新領域創成科学研究科教授 竹谷純一氏

技術概要は東京大学 新領域創成科学研究科教授の竹谷(たけや)純一氏が解説した。昨年度にも竹谷教授らは有機薄膜トランジスタ回路を使って信号を伝送したという発表を行っているが、そのときはアナログ信号の伝送だった。今回はデジタル信号の伝送に成功したというもの。

有機トランジスタを使ったプラスティック電子タグを開発するプロジェクトの概要
有機トランジスタを使ったプラスティック電子タグを開発するプロジェクトの概要

昨今話題のIoT等において、低コストのセンシングデバイスは必須である。通常の半導体ではシリコンを使っているが、シリコンは多機能化しようとすると高コストになる。だが有機半導体はフレキシブルなプラスチック上に絵を描くように回路を描くことができ、機能が増えてもコストがあまりかさまない。シリコンと有機、それぞれの半導体を使いわけることで、現在よりもはるかに効率的な物流が実現でき、省エネができるようになるという。

乗車カードや電子マネーに用いられる非接触通信用の商用周波数である13.56MHzを用いるためには、高速動作が必須となる。しかし、従来の多結晶有機半導体は応答性能が低いという課題があった。今回、竹谷教授らが開発した技術では、従来型の多結晶半導体ではなく単結晶有機半導体を使う。これによりキャリア移動度で一桁も高速に動作できる回路を高コストパフォーマンスで実現できる。16平方cm/Vsとシリコン並のキャリア移動度を実現できたという。

塗布結晶化法。塗って乾かすだけで有機単結晶の薄膜ができる
塗布結晶化法。塗って乾かすだけで有機単結晶の薄膜ができる

竹谷教授らは単結晶有機半導体を高集積化するために「塗布結晶化法」という新技術を開発した。高集積化するためには、ペンで半導体の絵を描くようなイメージで数百ミクロン以下の精度でp型とn型を塗り分けるような技術が必要だが、粘度を調節できる絶縁体の高分子材料を新規に開発。この有機半導体単結晶とポリマーとの混合溶液は、塗布すると自然に界面を作り、高分子の上に有機単結晶がライン状に連続成長する。この塗布結晶化法によって気温や空気などに影響されずに単結晶薄膜成長を安定化させることができるようになった。

温度センサー機能つき電子タグの有機単結晶デジタル回路
温度センサー機能つき電子タグの有機単結晶デジタル回路

「printed LSI時代の幕開け」だという
「printed LSI時代の幕開け」だという

今回の手法で有機半導体を用いて26ゲート回路のCMOSを実現できた。これは世界初であり、さらに大規模化できる可能性があるという。竹谷氏はLSIの印刷版が実現できる技術という意味で「printed LSI時代の幕開けであると宣言する」と述べた。

今回の印刷で作った回路の概要
今回の印刷で作った回路の概要

今回は、この「塗布して乾かすだけ」でできる技術を用いて、高移動度かつ熱安定性に優れる有機半導体である「アルキルDNBDT」の単結晶を用いた、温度変化をデジタル信号に変換するコンパレータ回路も作ることができた。有機温度センサーと有機単結晶デジタル変換回路、両方を印刷で作ることに成功した。

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会見では、アンテナとつないで実際にセンサーや回路が動作することを示すデモも行われた
会見では、アンテナとつないで実際にセンサーや回路が動作することを示すデモも行われた


今回発表の手法で作られた有機温度センサー

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アンテナの中にあるのが有機単結晶回路

現在は主に安価に製造することに注目した技術開発が行われているが、ごく薄い平面に回路が実装されているので、将来的には、平面を積み上げることで、集積度を上げていくこともできるという。

今後の事業化までのロードマップ
今後の事業化までのロードマップ

このようなタグを「エコ・トレースタグ」と竹谷氏らは呼んでいる。現時点ではまだ本格的な物流現場に導入できるほどの低コストは実現されていない。今後は、トッパン・フォームズ、富士フィルム、デンソー、JNC、TANAKA/EEJAなどの事業者と組み、低コスト化と歩留まりの向上を中心に研究開発と事業化を進めていく。

パイクリスタル株式会社を設立
パイクリスタル株式会社を設立

また大学発ベンチャーとしてパイクリスタル株式会社を設立。オールインワンデバイスをフレキシブル基板の上に実現して物流革命を目指す。

Text by 森山和道

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