プレイヤーがゲームを楽しむためのAI-スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏が「ゲームAI」について講演

 2017年6月28日~30日の日程で、「コンテンツ東京2017」と「第1回 AI・人工知能EXPO」が東京ビッグサイトにて開催された。出展者数はコンテンツ東京が1,650社、AI・人工知能EXPOが110社。いずれもビジネス向けの商談展で、一般入場はできない。主催はリードエグジビションジャパン株式会社。

 最終日の6月30日には「第1回 AI・人工知能EXPO」のセミナーとして、「デジタルゲームに息づくAI技術とは? ゲームAIの技術と活用事例について」と題して、株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーで、「ファイナルファンタジーXV」のリードAIアーキテクトである三宅陽一郎氏が講演した。簡単にレポートする。

株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏

 なお、今回は講演中のスライドはプレスも撮影が禁止されていたため画像が少ないが、三宅氏による「CEDEC 2015」での講演のスライドは「スクウェア・エニックス・パブリケーションズ」からダウンロードできる。また人工知能学会誌の2017年2号でも「ゲーム産業における人工知能」特集が組まれており、「AI書庫」でフリーでダウンロード可能だ。合わせて閲覧いただきたい。

■人工知能が現実世界に出る前の「箱庭」としてのデジタルゲーム

 囲碁や将棋の場合は、プレイヤーの代わりとして、人工知能がゲームをプレイしている。いっぽう「FF15」で採用されたようなオープンワールドでプレイヤーが自由に行動するデジタルゲームにおける人工知能は、世界の要素の一つとして組み込まれている。

 以前のAIは、コンピュータのなかに閉じこもっていた。いまはネットやクラウドに繋がっているだけでなく、さらに現実世界に出て行こうとしている。今はデジタルゲーム自体も「ポケモンGO」や「Ingress」のように外に出て行く時代になっているが、「現実世界に出る前の箱庭として人工知能がテストされるのがデジタルゲームだ」と三宅氏は述べた。

 ゲームAIの特徴は、リアルタイムであるということ。ゲームは1/30秒、あるいは 1/60秒で動かす。そのためゲームAIはリアルタイムに反応する必要があり、ロボットやドローンと似た分野であり、技術面でも共通点が多い。

■分散人工知能によって駆動される現代のデジタルゲーム

 三宅氏はスクウェアエニックスの「ファイナルファンタジー XV」(以下FFXV)を例として出した。FFXVは、モンスターと戦いながら仲間と一緒に旅をしたりして楽しむゲームだ。プレイヤー以外の全てはAIで動いている。つまり、3D空間でプレイヤーがAIと一緒に旅をするゲームである。

 ゲーム内で出会うキャラクター(NPC)たちもみな人工知能だ。AIの中はグラフ構造になっているが、開発においてはエンジニア以外のデザイナーたちが使える中間的なツールを開発して、それを通じてデザイナーがAIを使うことができるようになっているという。

 AIはプレイヤーの意図を読み取って先読みをしたり、モンスターが自分の身体の運動性能を認識して、このくらいならあたるだろうなと判断して攻撃を出すといったことに使われている。NPCは、ゲーム内環境を自分自身の持つセンサーで認識して動いている。

 いまは色々なものが知能化している時代だ。三宅氏は、以前はゲームそのものとAIが混ざった状態だった。今は各機能を持つAIが、ゲームそのものと分離しているという見方を示した。

 三宅氏によれば、ゲームのAIは「キャラクターAI」、ゲーム全体をコントロールして流れを作る「メタAI」、ゲームのなかの環境をナビゲーションする「ナビゲーションAI」の3つに大別される。役目が異なるこの3つが連携した分散人工知能として、ゲームが構成されているという。

■ゲームバランスを自動調整する「メタAI」

 「メタAI」はプレイヤーが楽しくゲームプレイするためにモンスターの難易度などをコントロールする。たとえばプレイヤーが危機に立つと、NPCがモンスターとキャラクターのあいだに立ってプレイヤーのキャラクターをかばったり、治療を施したりする。全員が同じ行動をするのではなく、AI同士の協調も司る。

 ユーザーの緊張度をリアルタイムに監視・計算することで、プレイヤーがリラックスしているとモンスターをたくさん出したり、プレイがうまいなと判断したらモンスター数を増やし、下手だなと判断したら減らす。モンスターはプレイヤーの経路を予測して緊張度を高めるようにする。

 「以前はゲームの出荷時にゲーム難易度やバランスが固定されていたが、いまはリアルタイムにゲームのバランスを調整し、ゲームをダイナミックに形成できるようになった」という。

■状況に応じてリアルタイムに意思決定する「キャラクターAI」

 キャラクターAIはノン・プレイヤー・キャラクターの脳みそのことだ。キャラクター自体が考えて行動する。身体を持って、自分自身の感覚器(センサー)を使って環境情報を獲得する。デジタルゲームの場合はそれらがすべてデジタル世界のなかで行われるため、情報が循環する。このループを三宅氏は「インフォメーションフロー」と呼んでいる。

 たとえば、モンスターの扇型の視野角に入ると、知覚されたと判断されて、攻撃が繰り出される。実際にはキャラから対象までレイ(直線)を飛ばして、それがあたると認識されるという仕組みになっている。

 NPCの意思決定にも様々な手法がある。ルール、ステート、ビヘイビア、ゴール、タスク、ユーティリティ、シミュレーションなどのアルゴリズムがあり、それらを組み合わせる。たとえばプレイヤーが右に見えたら右パンチを出すというモンスターがいたとする。これがルール・ベースのアルゴリズムだ。

 いま多く使われているのは、選択ルールとシークエンスを層状に積み重ねた「ビヘイビア・ツリー」。スクウェアエニックスでは、ビヘイビアツリーとステートマシンを組み合わせたハイブリッド型の階層構造とした技術を用いて、AIキャラクターの意思決定を行わせているという。

 状況と選択ルールに応じてステート(キャラの状態)が切り替わると、そのさらに下位のステートの選択が行われて、シークエンスが実行されていく。ビヘイビアツリーの末端では行動が選ばれて、その結果を受けて状況が変化すると、また始めに戻って行動の選択がくりかされる。

 三宅氏は、巨大なビヘイビアツリーとなっている現在のキャラクターAIの意思決定の仕組みを、ビデオで示した。状況が変わると別のビヘイビアツリーが選ばれて階層が切り替わる。スクウェアエニックスではこのAIグラフを作るための「AIグラフエディター」というGUIツールを作って、エディターがキャラクターAIを作成しているという。

 さらに最近は並列思考も行なっている。一つのビヘイビアツリーを走らせるだけでなく、同時に複数のツリーを走らせることで様々なことを考えさせることができるという。たとえば攻撃しながら次のことを考えたりするわけだ。

■世界を自由に移動するための「ナビゲーションAI」

 「ナビゲーションAI」はネットワーク上でグラフ探索を行い、経路を探す。現状、ゲームのキャラにどこを歩かせるのかをリアルタイムに判断させるのは難しい。そのため事前にナビゲーション用のデータとして「ナビゲーションメッシュ」を用意しておき、目的地までの最小コスト経路を探索させる。

 ナビゲーションメッシュは、キャラがどこが歩けてどこが歩けないのかを示すデータだ。データはプログラムで自動生成される。ただしこれは大局的なデータなので、細かい部分は通過するポイントを明示的に指定するウェイポイントを用いるといった、ハイブリッド的手法が現実には用いられているという。

 目的地の探索は「ポイント・クエリー・システム」と呼ばれる技術を用いる。ゲーム内に点をグリッド状に撒く。その各点を評価して、自分がどこをどう動けばいいのか探索する。これらとパス検索、意思決定などのアルゴリズムを組み合わせてAIキャラは自律的に動く。

 また、たとえば自分自身の腕がどこまで届くのか、攻撃がどのくらいな範囲まで届くのかといったこともあたったポイントを覚えさせることで実現している。モンスターやキャラクターは、自らの動作とその評価を通じて自分の身体能力を認識して、エリアに入ったら攻撃を行ったり、どのくらいの速度ならばコーナーを回ったり、急停止がどのくらい可能なのかといったことを学ぶ。

 これらの学習も自動で行われる。退社する前に、一晩中どのくらい動けるのか、どのくらいで制動をかければどのくらいの距離でとまれるのかといったことを学習させるようにしておくと、移動モーションのためのデータをキャラクターが自分自身でとってくれるのだという。

■プレイヤーが円滑にゲームを楽しむためのAI

 こういった技術によって、AIは自分で行動を見ながら、乗り物を乗りこなしたり、お互いにハイタッチをさせるような身体をあわせるような振る舞いが可能になる。

 状況に応じた会話を行うこともできる。たとえば戦闘が楽勝のときはゆるい会話をしたり、寒いときには寒いというモーションを行わせることで空気感を出す。いまキャラクターがどこにアテンションを向けているのかを推定することで、AIもアテンションを向けたり、アテンションを誘導したりできる。

 会話時のエージェントとエージェントの位置どりを行なったりすることもできる。また、仲間に対して「これをやっといて」というと、単純な命令だけで複雑な行動を行わせたりすることもできる。三宅氏は「このように様々なAIが散りばめられることで、プレイヤーが円滑にゲームを楽しめるようになっている」と語った。

■街のなかのキャラクターの行動を制御する「アンビエントAI」

 また、街の場合はモノのほうがキャラクターを制御する仕組みになっているという。室内の物体などがいわばスマートオブジェクトになっているのだ。たとえば「プレイヤーからの、このデータで、冷蔵庫をあけるふりをして」というふうに冷蔵庫に事前に組み込んでおくことで、自然な振る舞いが可能になる。

 また、椅子やテーブルなど街中のオブジェクトもキャラクターに対して指令を出している。NPCに対して、座って食事をしているかのような動作をするようなコマンドを物体側から出すことで、うまく生活感が出るような軽い制御をおこなわせているのだという。これらは「アンビエントAI」と呼ばれていると紹介した。

■音楽コンテンツの情報処理が新たな価値を産む

 このセッションでは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報技術研究部門 首席研究員の後藤真孝氏による「音楽コンテンツの自動解析・自動生成技術が価値を生むには? 音楽技術が切り拓く未来」と題した講演も行われた。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報技術研究部門 首席研究員 後藤真孝氏

 音楽鑑賞支援サービス、歌声合成技術など、音楽情報処理の研究を行っている後藤真孝氏は、音楽コンテンツはデジタル化による自動解析を通じて、もっと価値が引き出せるものだと語った。

 デジタル化による自動解析は、人が音楽を鑑賞する技術を拡張したり、創作支援したり、曲と曲の関係を解析して鑑賞の仕方を広げたり、歌詞のアニメ作成を支援することができる技術だ。音楽が自動解析できるようになれば、ロボットや演出機器との自動連動も可能になる。

 また、派生作品がどれだけ生み出されるかといった、これまでは不可能だったランキングを作ることもできるようになっている。定量的な解析をもとにして、歴史を振り返ることもできる。後藤氏は創作支援、鑑賞支援、いずれにおいても「コピー不可能な能動的体験」による新しい価値創出が重要だと語った。

【雪ミク(初音ミク)】「SNOW MIKU LIVE! 2015」背景映像 / Snow Fairy Story 【SNOW MIKU 2015 x Songrium】
自動生成されたPV。後藤氏らの研究成果の一つ

Reported by 森山和道

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