自分の存在を拡張するVR、そしてポストVR時代における身体の価値-NVCCテクノロジーセミナー・レポート

 VRといっても、HMDで覗き込む対象は仮想世界だけではない。実世界に置かれたアバター(化身)、ロボットのカメラが捉えた映像をHMDで見て、ロボットの身体をあたかも自らの身体のように遠隔操作するというものもある。テレイグジスタンスと呼ばれる技術だ。

 2016年10月27日、日本ベンチャーキャピタル株式会社主催のNVCCテクノロジーセミナー「ロボットが街を歩く未来」が大手町のグローバルビジネスハブ東京にて行われた。日本ベンチャーキャピタル株式会社(NVCC)はスタートアップおよびアーリーステージの企業を中心に投資しているVCで、大学にある研究成果の起業化の促進にも力を入れている。

日本ベンチャーキャピタル株式会社(NVCC)代表取締役社長 奥原主一氏

 登壇者は、遠隔操作するアンドロイド「ジェミノイド」の開発で知られている大阪大学教授の石黒浩氏、ハプティクス(力触覚)やVRの研究者である慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授の南澤孝太氏、触感型ゲームコントローラ「UnlimitedHand」などを開発しているH2L Inc.代表取締役の岩崎健一郎氏。ファシリテーターはオーム社「ロボコンマガジン」の竹西素子編集長が務めた。

■人は将来、ロボットになる!?

大阪大学教授 石黒浩氏

 セミナーは石黒教授の「AIとVRによって本格化するロボットの普及」と題した講演から始まった。常々、「アンドロイドやロボットを通して人間を知る」と語っている石黒教授は、アンドロイドを使って海外で講演を行っており、そのときのアンドロイドは分解して輸送しているとのこと。

 石黒教授は「人は人を認識する脳を持っている。人がもっとも関わりやすいものは人」、「人間そっくりのアンドロイドを作ることで『人間とは何か』といった哲学的な問いを問うことができる」、「ロボットを産業用の次に応用すべきは日常生活」と語った。

ジェミノイドと石黒教授

 また、昨今の人工知能ブームを踏まえて、「コンピュータの『認識』と、人間の『認識』はぜんぜん違う。人間のような概念を獲得するような人工知能はできておらず、コンピュータのなかで音声や画像をテキストに変換することができるようになっただけ。概念が本当にコンピュータに扱えるのかはまったく解けていない」と強調した。

 コミュニケーションロボットの用途としては英会話練習の相手や、幼稚園などに設置して写真を撮って父兄に売るといったビジネスモデルを紹介。ロボットのような実体を持ったエージェントには強みがあると述べた。今後、ロボットや技術の研究において認知科学の重要性は増すという。

 また、遠隔操作だけでなく自律ロボットの例として桂米朝師匠のアンドロイドや、新宿タカシマヤに設置されたこともあるアンドロイドの売り子、映画「さようなら」でのアンドロイド女優の事例を紹介した。「単に記憶した動作を再現するだけのアンドロイドであっても、観客はアンドロイドに心を感じる。単純なプログラムに心を感じてしまう。じゃあ心ってなんなのか。そういったことを教えてくれるのがアンドロイドだ」と述べた。

 遠隔操作アンドロイドを操っていると、操作している本人も自分の体の延長のように感じるようになることがあるという。これらを踏まえて脳波によるジェミノイドの制御などの研究も行っているという。

脳波を使ったアンドロイドの制御の研究

 人とロボットの関わりについては「人間そっくりのロボットだと1箇所でも不自然だと不気味に感じてしまう。だが外見をニュートラルにすると想像を使うようになる。そして想像は必ずポジティブに働く」と述べ「人の想像を引き出すロボット」が有効だと語った。そして石黒氏たちの考える「人の存在感を伝えるミニマルなメディア」として、「ハグビー」を紹介した。「最低二つのモダリティ(感覚様相)があれば人の想像力をかきたてられる」という。なお「ハグビー」は京都西川から販売中だ。

「ハグビー」を使った読み聞かせ

 石黒教授は最後にロボット社会のその後として100年後、1000年後の未来について語り、「人間には遺伝子と技術、二つの進化の方法がある。遺伝子の進化ではどんなに頑張っても月にいけないが、技術は圧倒的に人の能力を拡張する。技術開発は止まらない」と語り、「有機物でいるかぎり人間は120年の寿命は超えられない。本当の生き残りを考えるなら無機物になるしかない」と遠大なビジョンを語った。

■テレイグジスタンスと身体の拡張

 続けて、パネルディスカッション「VRによるロボット社会の究極系、サロゲートは実現できるか」が行われた。登壇者は前述のとおり、石黒浩氏のほか、慶應義塾大学大学院准教授の南澤孝太氏、H2L Inc.代表取締役の岩崎健一郎の三人。

パネルディスカッションの様子

慶應義塾大学大学院准教授 南澤孝太氏

 南澤孝太氏は、2015年に行われた「HUG」というプロジェクトを紹介した。介護施設に入っていて孫の結婚式・披露宴に出られない寝たきりの祖母に、HMDとロボット「Pepper」を使って、バーチャルに出席してもらった、というものだ。

「HUG」プロジェクト。当時つかったHMDはFOVE

 もちろん抱きしめた感覚などは伝わってこない。だがこのようなエモーショナルなコミュニケーションはスカイプでは起きないものだという。南澤氏は「そこに相手がいる、自分がそこに存在したという実感が、人同士の“繋がった”という共感を呼ぶのだ」と語った。

 南澤氏は2012年にテレイグジスタンスシステム「TELESAR V(テレサ ファイブ)」を紹介。HMDや触覚伝送用のグローブをつけた人が動くと、ロボットがそのとおりに動く。ロボットを通じて物体の触り心地もわかる。人はあたかも自分がロボットそのもになったように感じるという。

テレイグジスタンス(遠隔存在感)

 このようなテレイグジスタンス技術を使うと、身体の拡張を行うことができる。身体の所有感という概念もまた変わってくるのではないかと述べた。このような概念をは「エンボディド・メディア(身体性メディア)」と呼んでおり、人間の身体をいかに拡張するかの研究を行っていると語った。

テレイグジスタンスシステム「TELESAR V」

■VR中の物体の重さや反動を感じられるようになる「UnlimitedHand」

 H2L Inc.代表取締役の岩崎健一郎氏は、同社のもともとの技術である14チャンネル28電極からの電気刺激で望みの指を動かす「PossessedHand」と、VRゲーム用の触感型ゲームコントローラ「UnlimitedHand」を紹介した。加速度とジャイロ、筋電を使った入出力デバイスだ。

H2L Inc.代表取締役 岩崎健一郎氏

電気刺激で指を動かす「PossessedHand」

VRゲーム用の触感型ゲームコントローラ「UnlimitedHand」

腕に巻き、手を開いたり閉じたりする動作でコントロールできる

 ユニークな点は、単なる入力用コントローラーとしてだけではなく、巻いた腕自体をEMS刺激で動かすこともできる点だ。HMDを使えばVR内のオブジェクトを見ることはできる。だが触ることはできない。UnlimitedHandを使うことで、銃を撃った衝撃や、鳥が乗った重さの感覚を与えることができるという。

 「UnlimitedHand」は発表時には世界初の触感型コントローラーとして、まず海外のメディアなどで話題になり、KickStarterで資金募集したところ、目標の2万ドルを1日で達成し、最終的に7万5千ドルの資金を集めた。主に北米、日本、アジアで反応があったため、そちらからビジネス展開を始めているという。

開発者向けキットが35,000円(税込)で販売されている

UnlimitedHand

 このあとディスカッションでは、映画「サロゲート」のような技術が実現した社会でのロボット、人のやるべきことや人間にしかできないこととしてのコミュニケーション、インタラクションの価値、インターネットとVR技術などが進化発展した先の「身体の価値」と新たな制度設計や技術論といった話題が紹介された。

ファシリテーターを務めたオーム社「ロボコンマガジン」の竹西素子編集長

Reported by 森山和道

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